<仕組み解説>Guidelines of MakerDAO&dai

Watata Crypto Medium
27 min readNov 23, 2018

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これからMakerDAOとDAIに関してマジで詳しくリサーチしたい人へ。日本語で網羅的にまとまっている記事ないですよね。本記事を読んでください。

※2020/03/15日追記:この記事を執筆したのは2018年10月頃です。執筆時点から1年以上経っているため、Whitepaperもアップデートされています。したがって、考察部分はもとより、ファクト解説部分に関しても、ここに書いてあることが全て正しい保証はありません。

概観

daiが最近注目されている。実際に伸びている。そしてここ数日の仮想通貨市場全体の価格下降にも平然と耐えている。

緑:dai価格(米ドル)
水色:dai時価総額(米ドル)

Daiは、仮想通貨担保型のステーブルコイン。価値をETHに担保することで価格安定化を測る。(今後半年〜1年でMulti-collateral=複数のERC20トークンやその他資産の担保に対応予定。)価格は1Dai=1USD。MKRトークンはdaiを支えるユーティリティ&ガバナンストークン。MakerDAOのDaiに関して考察するには、ブロックチェーンに関する知識だけでなく、経済学、金融、ガバナンスなどの前提知識が不可欠。

ステーブルコインには、法定通貨担保型担保型、仮想通貨担保型、無担保型、ステーブルコインバスケット型(複数のステーブルコインにバスケットペッグ)、トランザクションフィー担保など色々ある。MakerDAOのDaiは、仮想通貨担保型のうちの1つで、その中で最も有名(他にはHavvenとかがある)

MakerDAOというDAO上でDaiというステーブルコインが発行されている。MKRトークンはガバナンスのために用いられるのでDaiとは別で手数料支払い手段やホルダーへのインセンティブとして用いられる。

目次

①スマートコントラクトによって担保資産をロックする「CDP」
・Single-Collateral
・Multi-Collateral
②Auto Liquidation(担保資産下落時の清算方法)
・ Single-Collateral
・Multi-Collateral
③システム停止機能「Global settlement」
④4つの価格安定化構造
⑤Makerプラットホームのガバナンス
・Makerプラットホームガバナンスにおける5つの原則
・投票モデル
・リスクマネジメント
・MKRトークン
⑥Daiの活用例
⑦ニュース・今後について
⑧daiの懸念点
⑨個人的な考察
⑩参考サイト・記事など

①スマートコントラクトによって担保資産をロックする「CDP」

Daiを発行するためには、価値を保証するために、担保をロックするスマートコントラクトを作成する必要がある。そのスマートコントラクトの名前を、CDP(Collateral Debt Positions )と呼ぶ。Daiでは、この担保資産を発行されるDaiの価格の1.5倍以上に制限することで、担保資産が下落した場合でも価格が保たれるようにしている。下記画像はmkr.toolというサイト。作成されているdaiに対する総担保はいつも約250%程度。

CDPを作成できるDappsはこちら
*ユーザーにとってCDPを作成する主な理由は、不動産担保ローンのような形で、担保資産への投資に何倍ものレバレッジをかけることができるから。他はアービトラージ。

Single-Collateral

現在Daiを発行するためには、一定のETHを担保資産としてロックする必要がある。ETHをPETH(Pooled Ether)と呼ばれるデポジット用の資産に変換し、ロックする。これによって、ETHと区別がつき、トランザクションデータを認識し、処理を楽にする。しかし、Single-Collateral(ETH担保)は時期に終了し、Multi-Collateralに移行する。

※ETHではなく、PETHを作りそれをデポジットにdaiを生成する理由は2つある。1つは、ETHと区別することでデータやトランザクションを追いやすくするため。2つ目は、ETHの価格が下落した際にPETHを新規発行しカバーするため。加えて、PETHの価格は厳密にはETHより少しだけ高い。(執筆時点:1ETH=1.030PETH)

Multi-Collateral

先日テストネットが公開されたMulti-Collateralは、担保資産を複数の資産に対応可能にすることで、ブラックスワンのリスクを減少させる狙いで採用されている。そして、より多くの通貨や資産を担保にすることで、CDP発行の障壁を下げ、Daiの供給量を上げることにも繋がる。(Daiの時価総額が担保資産の価値を上回ることは実質不可能なので、これまではdaiはスケールが難しいと批判されていたが、他のプラットホームが発行するコインや、Crypto以外の資産に担保可能になることで、その上限は大きく緩和される。)

②Auto Liquidation(担保資産下落時の自動清算のメカニズム)

Daiは、担保資産の価格が、あらかじめ定められていた限界の価格まで下がってしまった場合、CDP作成者の意図に関わらず、CDPを自動的に解体しdaiと担保資産の清算を開始する。そしてこのLiquidationの設計が、(おそらく微力だが)daiの価格下落を食い止める働きも担っている。

ちなみに、担保資産の価格が自動清算が行われる程度まで減少した場合は、強制ロスカットや手数料の徴収が行われるため、CDP作成者に返却される担保資産はごくわずかになる。

Single-Collateral

Single-Collateralの場合は、Liquidation Providing Contractというスマートコントラクトが作動する。
手順は以下の通り。そして改めになるが、近日中にSingle-Collateralは終了しMulti-collateralに移行することに注意。

○フロー
①担保ETHの価格が規定された担保比率の限界を超えるほど下落し、CDPの清算が決まる
②CDPが発行者ではなく、Makerシステムのコントロール下に置かれる
③CDPにロックされていた担保資産(PETH)が市場で割引で売却される
④KeeperがDaiでこのPETHを買う
⑤Keeperが支払ったこのDaiを全て焼却(burn)する
⑥CDP発行者は、③で売却されたPETHのうち、売らずに残った余りのPETH(ロスカットされなかった分)をETHで受け取り、借りていたDaiとその債務手数料、そしてLiquidity Penalty(罰金)をシステムに返済・支払う。

○各動作ごとの意図や詳細解説
①限界の担保比率はMKRホルダーらの投票によって決定される(後述)
④割引価格のPETHは、Keeperにとってはアービトラージのためのメリットがある。
⑤でDaiが焼却される理由は、担保資産であるETHの価格減少に対し、daiの供給を減少させることで需要を増加させ、daiの価格減少を抑え込むためです。
⑥ここでCDP発行者の手元に戻ってくるETHは、ロスカットされなかった分であり、ロスカットされた分はDaiの焼却に使われる。

Multi-Collateral

オンチェーン上で、2つの異なるオークションが行われる。これらを行う目的は、Daiの価格維持のために、daiをburnし供給量を減少させること。1つ目のオークションは”債務オークション”と呼ばれる。これは、MakerプラットホームがMKRトークンを新規発行し、そのMKRトークンで市場のDaiを購入&burnするというもの。これによりDaiの供給を減少させ、価格の下落を抑圧する。

しかし、担保資産であるMKRを大量に新規発行しているため、今度はMKRの価値が希釈化し過ぎてしまう。そのために2つ目のオークションとして”担保オークション”を行う。これはCDPの担保資産を新規発行し、市場に販売する。そしてその購入のためにCDP発行者が支払ったMKRトークンをburnするというもの。これにより、MKRを市場から減少させ価格を維持し、そのついでにCDP発行者に担保を与え、daiの価格維持も行う。まとめると、債務オークションでdaiを焼却し、担保オークションで債務オークションの際に刷ったMKRトークンを減少させ帳尻を合わせるということ。

③システム停止機能「Global settlement」

Global settlementとは、一言でいうと、”有事の際に、システムを完全に一時停止し、Daiホルダーの財産権を保証する仕組み”。有事とはシステムの大型アップデート時やハッキング攻撃を受けている時、Daiの価格下落が回復する見込みがない時などで、その際にはGlobal SettlementがMKRホルダーの中の代表者達によって発動され、Dai保有者はその時点で定められていた目標価格に基づき、いつでも自身が保有するdaiをETHに交換する権利をえる。

・CDPの新規発行も停止される。
・Multi-CollateralからSingle-Collateralに移行する際に、Single-Collateralを完全停止するために用いられる予定。

④4つの価格安定化構造

これまで述べてきた要素も含めて、Daiの価格安定化メカニズムを主に4つ。これらの要素が複合的あるいは段階的に作動することで、daiの価格は安定的に保たれている。

①CDPの余分担保
②アービトラージ(市場原理)
③Auto LiquidityにおけるLiquidation Penalty
④Global settlement

①・④についてはほぼ説明済みなので②・③について

②アービトラージ(市場原理)
日常的にアービトラージを行う主体は2パターンある。1つはdaiの価格が下落した際に、また上がると信じているトレーダー。もう1つは、CDP発行者。ユーザーはCDP発行者になることで、経済合理的なインセンティブを得ると同時に、結果的にdaiのステーブルに貢献している。CDP発行者は、Daiの価格が発行時よりも安くなれば、買い戻すインセンティブを得る。この需要増が価格下降を食い止める。

③Auto LiquidityにおけるLiquidation Penalty
Liquidation Penaltyとは、CDPが自動清算された場合にCDP作成者に課せられる罰金。現在Penaltyはロックした担保資産の13%と決められている。一見この13%という数字はCDP作成のインセンティブを止めてしまう微妙な設計だと考えがちだが、実はむしろCDP作成者が簡単にCDPを清算しないようにする抑止力として働くことで、担保資産の量を底上げし、daiの価格ステーブルを保つ役割を持っている。

担保資産の価格が下落すると、CDP作成者はLiquidationによるPenaltyで無駄な資金を失うことを恐れ、急いで担保資産を追加する。このネガティブなインセンティブが、担保資産の総量の下落を防ぐ役割を持っている。

こうして要素分解をしてみると、daiの価格は様々な耐下落インセンティブによって維持されて、”超過担保”という機能だけでステーブルを実現しているのではないことが分かる。

⑤Makerプラットホームのガバナンス

DAOプラットホームは、MKRトークンホルダーの改善案提起と投票によって新しいシステムの構築やリスク管理パラメータの調節がなされ、ガバナンスが行われている。

Makerプラットホームガバナンスにおける5つの原則

1ー科学的ガバナンス
→専門的で、厳密な審査をもち、再現性のあるモデルでのガバナンスを行う。
2ー不十分な市場への貢献
→営利(市場)だけでなく、より普遍的ん、人間、地球に貢献する。
3ー持続的ファイナンス
→担保ポートフォリオのガバナンスをより長期的に、安定的なものにする。
4ー徐々に分散化する
→真の分散化に向けては、Foundationのサポートも必要。ステップバイステップ。
5ーDaiの普及を促進する
→Foundationによるインフラやオラクルや、小さいが重要なタスクなど。

ガバナンスメカニズムと投票システム

リスク研究チームの選考リスク管理関数の決定は投票を通じて行われる。ガバナンスメカニズムと投票形態はそれぞれ2パターンある。

○2つのガバナンスメカニズム
①Proactive Governance=議論、決議、自動化実装、新しく採用する担保資産の構想、承諾、包摂やそのリスクパラメーターの設定。
②Reactive Governance=緊急時の介入。

○2つの投票形態
1ーGovernance Vote(決議が必要なとき)
→新しいオラクルの包摂、新しいリスクチームの受け入れなど
2ーExecutive Vote(決議をシステムに組み入れる際)
→新しく採用された担保資産のためのリスクパラメーターの決定など

●Timing of Proactive Governance Votes(①Proactive ×1-Governance)
・Once-off or initialization votes
ーリスクマネジメント機能は当初、内部チームが果たすことになるが、このチームは将来のチームのためにテンプレートなどを作成する。その設定のために、最初の投票が必要。
・Intermittent votes
ー新しいオラクルのための投票など。不規則に発生する投票。
・Regular votes
ー新しい担保資産のリスクパラメーターの実装など、定期的なイベントに対しての投票。

●Timing of Reactive Governance Actions(②Reactive × 1-Executive)
緊急時に、担保資産ポートフォリオの割合を変更するためのオラクルの増加・減少させるなど。

リスクマネジメント

リスクマネジメントは、投票により選出されたリスクチームが設定したパラメータを、投票の割合に基づいて実際のシステムに反映させるモデル。例えていうなら、政党がマニュフェストを掲げて、それに投票を行い、そのマニュフェストが実際の政治に反映されるというもの。2つ異なる点がある。1つ目は、複数のチームの考案したパラメータが投票割合に基づいて反映されること(死票がない)。2つ目は、そのマニュフェストらは、コード化されることで、(民主党とは違って)正しく実現されるということ。

以下は、MKRホルダーが提案・作成・修正できるリスクマネジメントのためのアクションと、CDPのリスク管理パラメータ。

MKRホルダーによる、リスクマネジメントのためのアクション
・新しいCDPの作成(固有のRisk parameterの作成)
・既存のCDPの修正(Risk Parameterの修正)
・Oracleの選定
→市場価格データをMakerに提供する主体を投票で決定する
・Price Feed Sensitivityの修正
→(後述)
・Global settlersの選定
→Global settlmentを実行する主体を投票で決定する

CDPのRisk Parameters(それぞれのCDPは作成者によって定義された固有のパラメータをもつ。)
・Debt Ceiling(現在40.194%)
→1つのCDPから借りることができるDaiの量。
・Liquidation Ratio(現在150.000%)
→清算比率。現在は150%を下回ったら清算が始まる。
・Stability Fee(現在0.500%)
→daiの発行に際して生じる手数料
・Penalty Ratio(現在13.000%)
→清算が行われた場合CDP発行者に課せられる罰金

OracleとPrice Feed Sensitivity Parameter
攻撃者や緊急事態からプラットホームを守るために、Price Feed Sensitivity Parameterというグローバル変数がシステムによって定義される。この変数は、OracleによってPrice feedがどれだけ変更されたのかを認知し、上限を設ける変数である。例えば、Price Feed Sensitivity Parameterが「15分に5%」と定義されていれば、Price feedの変化率は15分に5%まで、と上限が設けられる。悪意のあるOracleが15%以上Price Feedを書き換えたい場合は、最低でも45分の時間を必要とする。この程度の静止は、Global settlementを実行するのに十分な時間である。

MKRトークン

MKRトークンの役割は3つ

ユーティリティトークン
→CDPの返済時に支払われる債務発行手数料。MKRでしか払えない(CDPはMKRないと運用できない)。この設計はつまり、CDPの需要が増加すれば、MKRの需要も相関して増加すると言うことを意味する。だが、CDP手数料の支払いはいずれDAIで行われることになるという。

ガバナンストークン
→Makerシステムのリスクマネジメントを行う投票のために用いられる。MKRトークンの保有量に応じて、ガバナンスへコミットできる。1MKR=1票。

MakerシステムのRecapitalization
→daiの価格暴落や、システム自体の危機の際に、MKRトークンを新規発行し資金を調達する。(買う・売るは投資家・ホルダー次第)

現状、MKRのトークン設計は比較的うまく行っている。理由は2つある。1つ目は、MKRは通常新規発行されず、かつCDP発行と共にBurnされるため、MKR保有者はDAIが使用されればされるほど利益を得られるため。そして2つ目は、MKRの使い道が、ガバナンスの際がメインだということ。これはつまり、MKRの価格がトークンVelocity(流通速度)に左右されづらいということを意味している。

⑥Dai及びステーブルコインの活用例

CDP作成による投資レバレッジの最大化

不動産担保ローン活用して投資行うのに似ている。
例)
ETHの価格上昇で儲けたいとして、今自分が$1500分のETHを保有しているとする。1ヶ月後、ETHが2倍になると予測する。そのまま$1500ETHを持っていたら、1ヶ月後に手元にあるのは$3000ETHということになる。しかし、仮にCDPを作成してdaiを活用すれば、その投資レバレッジを最大化できる。やり方は、持っている$1500ETHをCDPにロックしdaiを発行したら、$1000分のdaiが手に入る(担保比率=1dai:1.5ETHなので)。そしてそのdaiでETHを購入する。すると$1000分のETHが手に入る。そしたらCDPを発行してそのETHをまたdaiにする。今度は$666分のETHが手に入る。これをあと4回繰り返すと、実質的にCDPにロックした全てのETH(約$4000ETH)は全て自分のものなので、1ヶ月後ETHの価格が2倍になった時に自分の手元にあるお金は何もしない場合に比べ2.5倍多くなる。($8000ETH)

厳密には担保ローンを組むのに利子・手数料がかかるので手元に残るETHは少し減る。法定通貨で同じことはできるが、取引所の手数料や税金を取られることなく投資を行える?(この辺はまだ曖昧)のでdaiで行うメリットは一定以上あると思われる。このユースケースはユーザーがdaiを発行するインセンティブ及びdaiの供給量増加のエンジンにもなる。

ただ、daiの場合担保資産は担保の割合が150%以上と定められているため、レバレッジ倍率が1.67倍までしかない。レバレッジ倍率がもっと高い投資機会は他にも山ほどある。(例えばBitMEXは100倍で投資できる取引所)

コマース(商業事業者・購入者)

販売事業者も消費者も、決済で用いられた仮想通貨がボラティリティ高いと保有リスクがある。だから法定通貨に換金するのが今は一般的だけど、daiがステーブルなら、その手間が省けるので便利。そして将来的にブロックチェーンの性能が向上すれば、ショッピングの際に生じるプライバシーの問題や支払い手数料の問題を解決できるかもしれない。あと、高額な買い物するためにローン組める。(ex.N回払いとか)

トレーダー達のための取引所リスクヘッジ

現在仮想通貨トレードを行う人たちからすると、儲けた利益はすぐに法定通貨にする方が安全。取引所内のどのコインもボラティリティ高すぎてどれに変えてもリスクが高いから。だけどdaiなどのステーブルコインは価値の避難所として機能する。換金コストを削減できるのでトレーダーにとってはとても嬉しい。

トークンエコノミーの拡大

SteemitとかBitsharesの例と同じだけど、あるdappsがユーザーとの共創経済圏を作るには、ユーザーに対しストックオプション的にトークンを保有してもらうシーンが出てくる。その時に、そのストックオプショントークンのボラティリティ高いとリスクが大きくてユーザーにとってトークン保有の障壁になってしまう。けど、ステーブルコインを作れればそれはなくなる。steemitはUSD担保のステーブルコインを作っていたけど、それを改良して、daiの仕組みを転用あるいはdaiを使ってその経済圏の基軸通貨に担保するステーブルコインを作れればこの問題は解決するかもしれない。ステーブルコイン全体に言えることだが、価格の安定化された仮想通貨は非中央集権的なWeb3アプリーケーションの発展と二人三脚のように思える。

多分まだ出てくるけど、とりあえずこれだけ。(MakerDAOのMedium読むと、これまでハッカソンで作られたdaiを活用したプロダクトを紹介しているので、気になる方はそちらへ)

※思想的にも面白い

”非中央集権的なステーブルコインの一般普及は、これまで人類の発展を爆発的に加速させてきた「お金」という価値交換媒体のコントロール権を、初めて人間ではなく、デジタル・テクノロジーに託す試みである”という意味で、daiのようなステーブルコインの成功は1つの思想的転換点になる。貨幣の3つの機能と照らすと、今の仮想通貨は不完全なお金。よくよく考えると、これは凄い事なのかもしれない。

あと、DAOという観点から見ても、学べることは沢山ある。現在のMakerDAOは、Keeperなどのbotを運営が開発している(管理はしていない)し、Etherscan見るとMKRトークンの7割以上は3つのアドレスで保有されているし、みたいな感じで「本当に分散化されてるの?」と疑問に思う点がいくつもある。オラクルに関してもそう。ただ上記のプラットホームガバナンスの5原則でも述べられている通り、非中央集権を目指すとしてもそれはステップバイステップであり、かつMakerの発展に対してできることは最低限Foundationがやることになっているので、成功例とかではなく、むしろ挑戦者として見るべき。

⑦ニュース・今後のロードマップなど

Multi-Collateral Dai(MCD)

2018年の9月17日にKovan TestnetにMulti-collateral daiのコントラクトをデプロイした。11月6日のmedium記事には、MCDのメインネットデプロイまでの大まかな構想を解説していた。今監査機関とMakerチームでコードの最終チェックしている最中で、準備ができたらローンチされる。

MCDによって変わる点
・DSR(Dai Savings Rate)という利息システムが採用される。銀行預金のように、一定額のdaiを一定機関DSRコントラクトにロックしておくと利息がもらえるようになる。(daiの需給調整のインセンティブとして設計された。)DSRの値を調節のは、専用のオラクル。

オラクル同士のScuttlebutt(伝言)

従来、daiや担保資産の市場価格をdaiに反映させるオラクルは、自ら別々に収集した価格データを別々nにブロックチェーンに送信していたが、今後はオラクル同士で一度通信を行い、より適正な価格を前もって合議し決定する。こうすることで、ブロックチェーンに送信するトランザクションをひとまとめにできるのでコスト削減にもなる。

MCDがミドルレイヤーの技術と連携する

従来のSingle-Collateralでは、スマートコントラクト技術が注目されていたが、MCDではスマートコントラクトの改良に加え、API、SDK & services(dappsのUIとか)などとの連携も可能になる。

Keeper

Auto Liquidityにおけるdebt-auctionの実現へ向け、auction-keeperやcdp-keeperなるものを開発中。

TRFM

WhitepaperにはTRFMと呼ばれる価格安定化メカニズムについて書かれているが、このメカニズムはMCD(Multi-collateral DAI)と共に撤去される予定。現在も採用されてはいるが作動してはいない。

Single-Collateral CDPを作成できるdappsをリリース

CDPの発行はリスクパラメーターの数値設定を自分で選んだりする。触ってはないので勝手なことは言えないが、旧版を試した人の感想によれば、旧版のサイトでのCDP発行プロセスのUXはひどかったらしいので、今回のdappsリリースで少しマシになったのかもしれない。

⑧MakerDAO&daiの課題

批判されているポイントは、主に3つ。

1ーETHの価格が大暴落したら、おそらく他のERC20も全部相関して下落するから、Multi-Collateralにすることでステーブルの問題が全て解決するわけではない。
→これは、現状でアナウンスされているDGXなどを筆頭に、従来の仮想通貨の下落と相関しない金に担保した仮想通貨や、その他トークン化された金融商品、不動産などにpegを分散されることで解決可能。ただ、今書いたような資産でトークン化されているものの総量が現状少ないので、このままでは十分な担保を確保できない。そのせいでdaiの供給量に限界が来てしまうのでは?という批判も出てくる。daiの供給量を増やす(スケール)ために既存の仮想通貨に多くの割合を担保するか、暴落への耐性(ステーブル)のために担保をより安全な資産に分散させていくか。このジレンマは直近の課題。

2ーDaiの保有とCDPの発行のインセンティブが弱い
→現状daiのユースケースが少ない。そしてCDPの発行に関しては、カウンターパーティーリスクはなく、金利も低いが、実際に金融投資をするにあたって考えると、レバレッジは弱いし、マージンコールはされないし、罰金が高いし、他の既存の金融商品に対して利点が少ない。今は順調に供給量が増加しているが、この先どうなるかは分からない。

3ーMakerプラットホームのガバナンスリスクの問題悪意のあるMKRホルダーが結託し、投票を操作することで、利益を得る行為。ここで得られる利益がリスクよりも高い場合、危険は大きい。
MKRホルダーの集権化は、誰の目で見ても分かる批判ポイント。しかし、ここまで複雑な仕組みのなかで、しっかりとした投票行動を行える一般投資家の数はそこまでいないということを考慮すると、ある程度の責任と高いリテラシーを持っている大きなファンドや投資家にMKRが集中したのは、初期段階としては最善の現象なのかもしれない。

⑨個人的な考察

daiは価格の下落圧力には耐性がある一方で、需要を増加させるインセンティブが弱い。なのでその部分を強める工夫を色々な形でしていく必要がある。(個人的に)考えられるアイディアは主に3つ。
1つは、daiの保有によって得られる直接的なインセンティブをトークンを用いて行うこと。例えばdaiの保有に部分的にシニョリッジ・シェアのアイディアを取り入れるとか。シニョリッジ・シェアはリスクがあるけど、メリットとコスト計算して、部分的に取り入れることはできると思う。Multi-Collateralになると、これまで以上に耐需要減の力は増してくると思うので、検討してみれば良いと思う。CDP発行者orDai所有者に対してどちらに適応させるのか、どちらもなのか?付与するのはMKRトークンなのかDaiなのか。その辺について誰かと議論してみたい。

2つ目は、Ethereumプラットホーム上の他プロジェクトとの連携をもっと加速させてユースケース見つける&供給を増加させること。特にデリバティブとかローンの領域(dY/dXとか?)などの金融や、origin protcolなどのコマース系。Maker自体がそういうアプリケーション作るのも可能性あるのかな?。

3つ目は、ステーブル性を高めるために、Multi-collateralの担保として採用する資産を、仮想通貨以外の安定資産だけでなく、ステーブルコインのバスケット通貨みたいにすること。TetherとかGeminiとか、Basisとかを全部ごちゃ混ぜにする。これはReserveがやろうとしていることだけれど、Reserve自体もまだ動いていないのでなんとも言えません。(※追記:Basisが死んでしまったので、Tetherとか中央集権ステーブルコインしか残っていないのはかなりキツい。そもそもの価値が中央に担保されてしまうことになるので。)

あと、(ここからは妄想)はハイパーインフレのリスクを抱える、またはそうなっている発展途上国で通貨の避難先として有効なので、そのまま国の通貨になっていいんじゃないかと思う。気づいたらGDPの30%はdaiで決済されてるみたいな世界観。それが無理でも、寄付などの国際送金や銀行のない地域での決済でdaiは結構ユースケース発掘できると思う。ただこの辺りはリサーチ不足なのでこれ以上は怖くて何も言えない。笑

以上です。ステーブルコインが成功するかどうかすらすっ飛ばして色々書きましたが、技術的にも思想的にもステーブルコインは面白いです。ただ技術の面でいうと、スマートコントラクト触ったことはあっても、Makerのgithubを完全読破する能力がまだないので、これからコード読む力もつけて行って、設計を本気で学んで行きたいです。

⑩参考サイト・記事など

前回も書きましたがまた書いておきます。参考にしてください!

●基礎
①「MakerDAOとStablecoin」 by Individua1
②「MakerDAO Whitepaper 」by MakerDAO(日本語はこちら
③「MakerDAO & Dai解説」 by Hiro Inagaki

●発展
①「Maker Official Medium
ガバナンスはこれがおすすめ
②「Maker developer
「Reserve’s Analysis of the MakerDAO Protocol」by Reserve(※Reserveはピーターティールが推してるステーブルコインプロジェクト)

・その他サイト
Reddit MakerDAO
MakerDAO purple paper(技術者向け、日本語)
mkr tools
MakerDAO github
Maker Chat
DAIダッシュボード(DAI Explorer)

以上です。
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I’m Sota Watanabe, interested in blockchain, mainly decentralized finance(stablecoin, lending)